初めての ”ラボ型オフショア開発"【4章】ベトナムの経済を知ろう

ベトナムの経済について
ベトナムと言えば、東南アジアの発展途上国で、観光地、ベトナム料理、バイクの群れ(ほとんどホンダ製)、中国との南沙諸島の領有権問題(日本と同様)、冷戦期の悲惨なベトナム戦争などしか思い浮かばない人も多いでしょう。
しかし、ベトナムは近年、アジアの発展途上国の中でも注目を浴び、実際、ASEAN(東南アジア諸国連合)の中で大きく成長する可能性を秘めた国となりつつあります。
成長を続けるベトナム経済

ベトナムは、もともと農業など第一次産業の割合が高い国でしたが、現在では、第二次産業の製造業・建設業、第三次産業の商業・観光業も成長しています。
この背景には、ベトナム政府が“社会主義”に“資本主義的な市場経済システム”を取り入れるという“ドイモイ政策”を行った事が功を奏しています。 ベトナムの一人当たりのGDP(国内総生産)は他のASEAN諸国と比べてまだまだ乏しく、日本、韓国、シンガポールとは比べものになりません。また、貧困率も約40%と少なくありません(ただし、中国、インド、フィリピンを下回っている)。
アジアの主要国の一人当たりのGDP
しかし、GDPは基本的に右肩上がりとなっており、安定成長が続いています。また、リーマンショックからも早い段階で回復しました。 ちなみに、日本の高度経済成長期は1954年~1973年の約19年間で平均9%でありますが、ベトナムの成長率もあなどれません。また、ベトナム政府は今後9~12%の達成を目標にしています。
今後、中国の人件費が高騰する中、人件費が中国のおよそ6割であるベトナムが第二の「世界の工場」となるかもしれません。
ベトナムと日本の経済的結びつき

日本とベトナムとの政治的・経済的関係はおおむね良好です。国民レベルでも親日的であると言われています。とくに日本政府や民間企業、国際機構が積極的に経済的な援助を行っており、ベトナムにとって日本が最大の援助国になっています。
日本の対ベトナム援助総額は、おおよそ7,691.29億円(1999年度までの統計による)で、有償資金協力6,215.15億円、無償資金協力819.06億円、技術協力281.08億円となっています。
有名な援助内容としては、以下を例として挙げさせていただきます。
- 日本のODAによるインフラ整備
- 日本の新幹線技術による南北縦貫高速鉄道
- 日本原子力発電の建設
- レアアースなど鉱業の開発協力
また、JETRO(日本貿易振興機構)は、日系企業のベトナム進出を促進する目的で、“経済特区”と“ハイテク区”を定め、法人税や輸出入税が優遇しています。主な経済特区やハイテク区特区は以下の通りです。
- Hoa Lacハイテク区
- Van Don経済特区
- Da Nangハイテク区
- Chu Lai経済特区
- Dong Nam経済特区
- Saigonハイテク区
- Nhon Hoi 経済特区
なお、経済的な事情からは少し離れますが、参考までにアジア諸国の親日度を示すデータを挙げさせていただきます。ベトナムの親日度が97%とかなり高いことが分かります。
ベトナムの基礎知識

ベトナムでのIT産業やラボ型オフショア開発について考えていく前に、これだけは知っておきたい政治や歴史の基礎知識を簡単にまとめさせていただきます。
正式な国名は「ベトナム社会主義共和国」。漢字表記では「越南(ヴィエット・ナムと発音)」。
首都はハノイ市。最大の経済都市はホーチミン市(南北統一前のサイゴン市)。
ベトナム語はもともと漢字表記だったが、現在はローマ字表記が使われている。公用語はベトナム語であるが、英語教育が盛んである。
政治は、ベトナム共産党による一党独裁制。集団指導体制で、個人崇拝はない。初代共産党主席の『ホー・チ・ミン』は、祖国解放・南北統一の歴史的英雄として国民の間で広く尊敬されている。
ベトナムは、古代から長い間、中国の支配・侵略を受け続け、その影響により反中感情や警戒感が強いと言われる。
近代にはフランスによる植民地支配が続いたが、日本軍の進駐で独立した (親日の理由とも言われる)。冷戦時代に南北に分断されたが、ベトナム戦争でアメリカに勝利し、南北統一を果した。現在では、アメリカとの関係もそれほど悪くない。
ベトナムのIT業界について
ベトナムの近年の経済成長率は高く、世界中から注目を浴びています。また、IT(情報技術)産業も目覚ましく発展しています。 ベトナムの一人当たりの所得がまだ低い現状、IT関連企業の社員の所得は国民の平均所得の2倍以上も高く、ベトナムの花形産業になっています。
ベトナムのIT産業の構成
以下の表は、ハードウェア、ソフトウェア、デジタルコンテンツの3分野の売上高(百万米ドル)の推移です。
2008年 | 2009年 | 2010年 | 2011年 | |
---|---|---|---|---|
全IT業界 | 5,220 | 6,167(18%) | 7,629(24%) | 13,664(79%) |
ハードウェア業界 | 4,110 | 4,627(13%) | 5,631(22%) | 11,326(101%) |
ソフトウェア業界 | 680 | 850(25%) | 1,064(25%) | 1,172(10%) |
デジタルコンテンツ業界 | 440 | 690(57%) | 934(35%) | 1,165(25%) |
GDP成長率 | 6,18% | 5,32% | 6,78% | 5,89% |
ベトナム情報通信省「ベトナム情報通信技術白書2012」より
こちらをご覧いただくと、まず、ハードウェア分野が急成長しているのが分かります。これは携帯電話の輸出の増加が主な要因と考えられています。次いで、デジタルコンテンツの分野が成長しています。ソフトウェア開発の割合は少なくなっています。
IT関連企業によるベトナムへの投資
欧米やアジアのIT先進国の企業は、以下のようにベトナムに大規模な投資を行っており、ベトナムのIT産業の成長に寄与しています。
- 2006年:Intel(米)がコンピュータ部品の組み立てのために10億ドルを投資
- 2009年:Capgemini(仏)がIACP Asiaを買収
- 2011年:NTTdocomo(日)がベトナム通信大手VMG Media株の25%を取得
- 2013年:Samsung(韓)がマイクロプロセッサ工場に12億ドルを投資
世界のアウトソーシング最適都市TOP5 0では、ホーチミン市が5位、ハノイ市が10位にランクしました。ダナン市もそれに続いています。 「日本のIT企業によるオフショア開発発注先相手国」では、ベトナムがインドを抜き、中国に次ぐ2位になっています。
相手国 | 2007年 | 2008年 | 2009年 | 2010年 |
---|---|---|---|---|
中国 | 83,30% | 80,30% | 84,90% | 78,10% |
ベトナム | 13,90% | 15,80% | 17,80% | 23,30% |
インド | 16,70% | 13,20% | 13,70% | 13,70% |
フィリピン | 6,90% | 7,90% | 5,50% | 5,90% |
独立行政法人情報処理推進機構「IT人材白書2012」より
ベトナムの主なIT企業
ベトナムの主なIT企業として、次のような会社があります(アルファベット順)。
Aureole Information Technology
オフショア開発受託
CodeLovers Vietnam
オフショア開発受託およびベトナム進出のサポート
FPT Information System
ベトナム最大のシステムインテグレーター
SAP、Oracle、IBMなどを顧客に持つ
FPT Software
ベトナム最大手のソフトウェアアウトソーシング会社
Microsoft、Amazon、IBM、SAP、Oracleを顧客に持つ
Global CyberSoft Vietnam
米カリフォルニアを本拠とする国際的なITソリューションプロバイダー日本企業の顧客も多い(大日本印刷、三菱、富士通、東芝、キヤノン、エプソンなど)
Golden Key Informatics
主にグラフィックサービス(CAD、3Dモデリングなど)を提供
GREEN SUN Software Solution
オフショア開発受託日立、パナソニックなどを顧客に持つ
K&G Technology
オフショア開発受託
TAN THUAN
ベトナムでの事務所レンタル/工場レンタル/土地レンタル
TDA Solutions
オフショア開発受託
TMA Solutions
オフショア開発受託。日立、NEC、NTT、東芝、Avaya、Alcatel-Lucent、Juniper Networks、Siemens、Ericsson、IBMを顧客に持つ
Viet Nhat General JSC.
主に日本からのソフトウェアアウトソーシング
ベトナムの人件費の相場
ここでは、ベトナムの人件費についてアジア各国と比較しながら見ていきます。
中国 | ベトナム (ハノイ) | ベトナム (ホーチミン) | インドネシア | フィリピン | シンガポール | タイ | マレーシア | インド | 日本 | 韓国 | 台湾 | |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
製造業:一般工 | 466 | 145 | 148 | 239 | 301 | 1230 | 345 | 344 | 398 | 3306 | 1734 | 1143 |
14.1% | 4.4% | 4.5% | 7.2% | 9.1% | 37.2% | 10.4% | 10.4% | 12.0% | 100.0% | 52.5% | 34.6% | |
製造業:エンジニア | 743 | 342 | 297 | 433 | 452 | 2325 | 698 | 944 | 927 | 4231 | 2255 | 1456 |
17.6% | 8.1% | 7.0% | 10.2% | 10.7% | 55.0% | 16.5% | 22.3% | 21.9% | 100.0% | 53.3% | 34.4% | |
製造業:マネージャー | 1445 | 787 | 653 | 1057 | 1070 | 4268 | 1574 | 1966 | 1738 | 5773 | 3249 | 2002 |
25.0% | 13.6% | 11.3% | 18.3% | 18.5% | 73.9% | 27.3% | 34.1% | 30.1% | 100.0% | 56.3% | 34.7% | |
非製造業:一般職 | 840 | 418 | 440 | 423 | 493 | 2330 | 664 | 858 | 518 | 3281 | 2165 | 1356 |
25.0% | 12.7% | 13.4% | 12.9% | 15.0% | 71.0% | 20.2% | 26.2% | 15.8% | 100.0% | 66.0% | 41.3% | |
非製造業:マネージャー | 1962 | 976 | 1222 | 1245 | 1194 | 4672 | 1602 | 1986 | 1382 | 5487 | 3425 | 2344 |
35.8% | 17.8% | 22.3% | 22.7% | 21.8% | 85.1% | 29.2% | 36.2% | 25.2% | 100.0% | 62.4% | 42.7% |

このように、ベトナムの人件費は、アジアの国々の中でも下位に位置づけられ、オフショア開発の大きな委託先である中国と比べると約1/2となっています。 とは言え、賃金の上昇率を見ると、ベトナムは高い水準で推移しており、今後もこの傾向は続くと考えられています。