初めての ”ラボ型オフショア開発"【1章】一般的なオフショア開発

   

オフショア開発

オフショア開発って何?

「オフショア開発(Offshore Development)」とは、「海辺(shore)から離れた(off)開発(Development)」という意味です。
簡単に言えば、「オフショア開発」は“開発を国内ではなく、海外で行うこと”をいいます。ここでの「開発」は、普通、システム開発やソフトウェア開発のことを指すのが普通ですが、広くは、コールセンターなどの業務を海外で運用することも含める場合があります。

オフショア開発は、英語圏の国の間(欧米とアジアなど)で盛んに行われ、現在では日本を含む世界中に広まっています。

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オフショア開発と似ているものに「ニアショア開発(Nearshore Development)」というものがあります。「Nearshore」は「海辺(shore)の近く(near)」の意味で、国内の別の場所(海外よりは近い国内の遠隔地)で行う開発をいいます。

「事業の中心地(先進国や都会)」から「離れた場所」でオフショア開発やニアショア開発を行う理由としては、

  • 人件費が安いので、コストを大きく抑えられる
  • 物価や地価(土地代)が安いので、コストを抑えられる
  • 必ずしも事業の中心地で行う必要がない業務である

などが挙げられます。

しかし、営業、企画、設計、納品、物流などの業務は事業の中心地や消費地から地理的に近い場所で行う必要があるため、オフショアやニアショアの対象にはなり得ません。何故ならデメリットの方が多いからです。

オフショア開発の選択の基準として、その業務が事業の中心地から「どの程度近くにある必要があるか」、「どの程度遠くにあっても良いか」が重要です。また、海外に出ると、言語、文化、習慣、法律、法律、時差など様々な違いがあり、それらが「バリア(障壁)」にもなります。

社員やスタッフの移動の頻度やコストも考慮する必要が出てきます。

主に大企業では、以前から「アウトソーシング」(直接資本関係のない外部の企業に業務を委託すること)が行われてきましたが、オフショア開発も一種のアウトソーシングと考えられます。

オフショア開発の業務委託先としては、アメリカからはインド、日本からは中国が多いといえます。いずれも、コストの面だけでなく、「時差」の問題がからんでいます。日本と中国の場合は時差がわずかであること、アメリカとインドの場合は「時差がちょうど12時間」で業務分担によってフル稼働が可能という理由が大きいと言われています。

業務委託先の国として有名な国はシンガポール、フィリピン、タイ、ベトナム、韓国、ロシア、メキシコ、ブラジル、ハンガリーなどが知られています。

オフショア開発のメリットとデメリット

オフショア開発のメリット

ここでは、オフショア開発のメリットについて考えていきます。

人件費の削減によるコストダウン

オフショア開発の最大のメリットは、“人件費の削減によるコストダウン”です。 日本人エンジニアの人件費は世界最高水準です。
国によって差はありますが、オフショア開発を行った場合、スキルが同等レベルのエンジニアの人件費はかなり安く、開発プロジェクト全体のコストダウンが期待できます。

日本と、オフショア開発先の国々の人件費(中堅エンジニアの月額賃金)を比較すると表のようになります。

都市月額賃金(米ドル)日本を100としたときの割合
中国北京74615.7
広州70414.8
深セン65013.7
フィリピンマニラ4529.5
ベトナムハノイ3427.2
ホーチミン2976.3
タイバンコク69814.7
インドニューデリー64113.5
バンガロール92719.5

三菱東京UFJ銀行国際業務部「アジア各国の賃金比較(2013年)」より

なお、コストについては、為替レートを考慮する必要があります。円安が進んだ場合、それによってコストダウンできる幅が少なくなります。

人材(エンジニアなど)の確保

日本では、優秀なエンジニアに対する需要は非常に高く、人件費は高止まりしています。そのため、プロジエクトに必要十分なエンジニアを揃えることが難しいのが実状です。

多数のエンジニアで構成される大型プロジェクトでは、その困難さは多大です。

それに比べて、オフショア開発先の国々では優秀なエンジニアの確保が容易です。 中国やインドでは、オフショア開発を受託する会社が多く存在しています。

オフショア開発のデメリット

ここでは、オフショア開発のデメリットについて考えていきます。 なお、デメリットの説明がメリットの説明より多くなっていることは、オフショア開発を否定しているのではなく、クリアするべき問題点を挙げていると思ってください。

地理的な距離・時差・移動時間

デメリットとしてすぐに思い浮かぶのが、現地と“地理的な距離”があるということです。距離があれば、時差が発生し、移動時間もかかります。 日本との距離(直線距離)、時差、移動時間(空港間所要時間)は表のとおりです。

直線距離時差移動時間
中国2100km~2800km1時間~1.5時間3時間~4.5時間
フィリピン3000km1時間4時間
タイ、ベトナム3700km~5300km約2時間5.5時間~7時間
インド5300km約4時間8時間

※ちなみに、東京・大阪間の距離は510km、空港間所要時間は1時間です。

距離や時差は、コミュニケーションにも影響します。
現代は、インターネット、メール、電話でコミュニケーションが簡単に行えます。メールは、時差の影響を受けませんが、電話やビデオ会議・インターネット会議は時差を考えて行わなければなりません。

また、フェイス・ツー・フェイスのコミュニケーションも必要になる場合もあるはずです。その場合は、移動のための手間や時間、コストの問題が出てきます。

さらに、何かトラブルが発生しても、「すぐに現地に駆けつて解決する」ということは難しいでしょう。

言語・文化・国民性

国民性

デメリットの中で最も大きいものに、言語・文化・国民性の問題があります。

日本国外で行うのがオフショア開発ですから、現地で使われている言語の問題をクリアしなければなりません。アジアの国々では日本語を身につけている高学歴層もいますが、世界標準語は英語です。

日本人の側でも現地語(中国語、タイ語、ベトナム語など)に対応できるスタッフは限られてきます。そのため、日本の側には英語が堪能なスタッフを揃えておく必要があります。

また、言語の問題は、コミュニケーションの問題だけでは済まないことがあります。 開発の中に日本語に依存した内容が含まれる場合です。例えば、アプリなどのソフトウェアの開発では、“表示される日本語の品質”が“製品の品質”に直結します。日本人が違和感を持つ日本語が製品中に使われていると、製品イメージを損なう可能性もあります。

オフショア開発のプロジェクトを進行するにあたって、文化や国民性についても配慮が必要です。仕様書や設計書に曖昧な点があって、それを現地に任せてしまうと、想定外の製品が出来上がってくることもあります。文化的な相違によって、現地で開発を行うスタッフの感覚と、製品を使う日本人の感覚がずれてしまうこともあり得ます。
プロジェクトの進行方法やコミュニケーションについても、文化や価値観の違いの影響を受けます。

コストダウンの効果

小規模なオフショア開発のプロジェクトでは、コストダウンの効果が出にくい傾向があります。 プロジェクトの立ち上げの準備、進捗状況の管理の手間を考えると、思っていたよりコストが下がらない可能性があります。

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